「え……なんでいんの?」
「いちゃ悪ぃのかよ、浜田」
「いや、悪くない。悪くないです泉さん」
形相と機嫌が素晴らしく下降線を辿っている泉に「ぎゃー!怖いから!」と顔を青くして、ぶんぶん頭を振る浜田。
思わず笑いそうになるのを堪えるようにして泉は手袋も嵌めていない手を口元へ持っていく。
「うるせーやつ」
つっけんどんになってしまうのは、浜田に至ってはもう仕方がない。
夕暮れのグラウンドで茜色に染まる空。
もう寒くて朝の練習が少し辛いなと思う季節。でももちろん練習が始まれば心も身体も温かくなって、そんなことは吹き飛んでしまう。
皆、そう。
野球が楽しかった。
顔を見ればすぐに分かったことだった。
「ほんと、どうしんだよ。泉」
下校時。
校舎の玄関からグラウンドに出て少し。
肩に中身が入っていないだろう丸分かりの鞄を軽くかけて、近くに寄ってきた浜田に視線を掬い上げるようにして見上げる。
覗き込むようにした浜田の背中は夕日に当たって、薄い栗色の髪の毛が空のように赤くなっているのが綺麗だと思ったのは、何かの気の迷いだと。
そう信じ込ませるようにして少し、視線を下げた。ちょうど泉は浜田のお陰で影になっていたので表情は上からだと少し暗くなって分からないだろう。
そして、溜め息を業とらしく吐いてやり、もう一度見上げると不思議そうな浜田と目があった。
「おらよ」
「ん?なにこれ」
「やるよ。浜田に」
「え、泉がっ?!」
「なんだ。俺がやったらおかしいのかよ?」
「いやいやいや、滅相もございません」
泉の鞄からひょいっと出され渡された味気ない袋。その中へおもむろに入れられたものが逆さまにすると、コロンと出てきた。
「…あ、野球のボールじゃん」
「そ」
「え……」
意味分かんない、と首を傾げてくる浜田にニヤッと笑ってやる。
「三橋はいつもだけどボール触って幸せそうにしてんだ。部活だけじゃなくってさ。ホント好きなんだよな。で、お前は知ってると思うけど、普通に触ってみるとさ結構ボールって触感いいんだよな」
「うん。まあ」
「だから。それさ、俺のだから心置きなく触れ」
「…………なんで、?」
物をくれるという泉に驚いていた浜田の顔が。
きょとんとしていた顔から一変、泉の言葉や表情を読み取ろうと目を細める。それを真正面から受け止めてやった。
「触りたくない、なんて言わさねぇよ。たまには見るだけじゃなくってさ。触って野球を感じろ」
それぐらい、いいだろ?
「………………」
無言でいる浜田に、「ま、押し付けもいいとこだけどな」と言いながら自分よりも縦にでかい浜田の横をすり抜けていく。
勿体無い身体だ、なんて言ってやらない。
「煮て食って焼いて、捨てるなりしてもいいかんなー」
「泉!」
「……あ?」
「、、触って、いいのかな」
立ち止まって。
ゆっくりと顔だけ振り返ると、少し俯く浜田がコロンと意外と手先の器用な大きな掌の中で転がる、薄汚れたボールを見詰めていた。
「いんじゃない?浜田、バカだから」
「なにそれ」
「そのまんま。………何も気にすんな、ってことだよ」
「………バカのままでいろって?」
「そうそう」
「………………ったく。泉には叶わねぇ」
「え、なんか言った?」
小さな小さな声でボソッと言ったから浜田の最後の言葉が聞き取れなかったが、嬉しそうにボールを見詰めていたのに少し胸を撫で下ろした。
「いーや。なんもねぇ!泉、ありがたく貰っとく!」
夕日を一身に浴びた浜田が眩しそうに目を上げたのに、微かに笑ってやりながら「じゃな」と背を向け、ひらりと手を振った。
誕生日、おめでと。
なんて絶対言ってやらねぇ。
街へと落ちかかっている目の前の夕日に向かって、ペロッと舌を出した。
「気付きやがれ、ってんだ。バカはまだ」
そんな言葉はグラウンドに吹いた風に攫っていかれた。
...fin.
2007.12.19
−コメント−
「え、俺、今日誕生日なのか?」と家に帰ったら気付きましたパターンかもしれません。
で、ボールを見詰めて、あれ?とまさかと首を傾げてもいいかもしれません。
はまちゃんのBirthdayにこんなSS。
初めての泉と浜田です。
夕日を背にした、クールな泉が微かに笑ったのを見て頬を染めるはまちゃん。
ハマイズの少しアダルトな雰囲気に当てられました。三橋が絡んだら最高ですよね。
二人とも三橋が大好きだから3人でわちゃわちゃしたらいいかもしれない。それだとハマイズじゃないよ、いやそれも立派なハマイズになるんだよと、そんな妄想が繰り広げられながら。
ここまでお読み下さり、本当にありがとうございました。