「わたし、絶対高校選び失敗したぁー……」

 溜息混じりに、隣を歩く友人に愚痴る。
 偏差値が5つは下のこの私立高校に入ったのは、単に近いからという理由だ。冷暖房完備で地元からたった三駅。校則がキツイと言うのも自称真面目な私には悪くない。私立推薦で評定が足りているにも関わらず落ちるような真似はしないから、受験シーズンで頑張っている友人を見下すように遊んでいられた。
 しかし駅からのバス通学が、ここまで面倒だとは思わなかった。
 バス停から校門脇まで及ぶ長蛇の列。公共ルールを守らない生徒共。鬱陶しい。
 私と同様に感じているらしい。彼女は苦笑した。

「いいじゃん、駅は近いんだから」
「家から遠いもん」

 我が家は田舎。何せ駅から峠を二つ越える。
 中学生達――この学校は中高一貫教育だ――がわらわらとやって来て、大声で騒ぎ始めた。正負の数、比例反比例。ああ、懐かしきかな授業内容。でも煩い。
 この程度の私立中学に入ったってしょうがないっつーの。公立行け、公立。

 ……なんて、彼らを見下す自分に自己嫌悪。何処で学ぶかなんて関係無いんだ。自分がやるかやらないかの差。どんなレベルの所に入ったって、努力次第でどうとでもなる。
 私みたいなのは、努力もできない負け犬なんだと思う。

 知ってる。ちゃんと分かってる。
 後々辛い事になったって、大変になったって、高校で良い思いをしたいと思った。
 見下されるのが嫌で、嫌いで、自分の狭い世界の中で人を見下していたくて、此処を選んだ。今自分が立っている場所を選んだ。
 自己嫌悪が一つの諦めで、馬鹿みたいな事だっていうのも知ってるけど、それでも逃げたかった。

「ねー、この学校選んで失敗したなぁって思わない?」

 もしもう少し自分に見合った学校に入っていれば、もう少しは向上心が抱けたのではないかという期待から、つい彼女に聞いた。

「思う思う。自分でも何で此処選んだのか分からないよ」

 私も分からない。彼女もまた、頭が良かった。この環境で自分より頭の良い人間とこういう友達になれたのが、救いかも。
 きっと彼女も私を見下しているのかもしれない。私が、クラスメイトを見下すように。でも、それでも構わない。此処ならば、私の上にいる人間よりも下にいる人間の方が遥かに多いのだから。トップに立ちたいわけじゃない、ただ、誰かを上から眺めたかった。

「部活はソフトって決めてたの?」
「うーん、まぁ、中学のときからやってたから。でもちょっと後悔してるんだよねー」

彼女も運動部目当てで入ったのではないか、と思いついて話を振ってみれば、彼女は眉を顰めた。この学校は偏差値が程々でも運動部の成績は上々、らしい。私は興味がなかったから入学してから知ったのだけど。

「何で?」
「……部活の子たちがさ、裏でこそこそ言ってるんだよ。ちょっと、うーん……って感じ」

 この場で私にそう言っている時点で彼女たちと同じ。なんて水は差さず、私は「しょうがないよ」と苦笑した。

「だって成績いいんだもん。僻みだよ。ひ、が、み。」
「えー……ていうかそれはわたしに対する嫌味?」
「もちろん!」

 他の友達相手では話せないようなこと、他の子に話すと明らかに嫌味としかとられないようなことが話せるからいい。嫌味だとか嫌味じゃないとか、そういうことを冗談で言える間柄がいい。
 二人で笑ってから、彼女は小さく溜息を吐いた。

「……部活やめたいなぁ」

 文武両道の彼女が羨ましいと、心から思いつつ。私は彼女の肩を叩いた。

「大丈夫だよー。裏切られることを前提にしてれば怖くないって」

 自分がこれだけ嫌味なことを心の中で考えているのだから。と、いつも、そう思って人を見ている。成績で私に勝てない人たちは、例えば私の容姿を嗤う。ムードメーカーで処世たけた人たちは、自分の仲間を嗤うんだ。

「え、それってうちも裏切るかもって思われてるってことー?!」

 大丈夫。それは多分、当たり前。

「いえいえいえ、そんな事は御座いませんとも」
「何その口調ー」

 笑いながら言った彼女に、ふざけた口調で返す。
 内心とは正反対の言葉。

 彼女の事は嫌いじゃないし、寧ろ好き。だからこそ、裏切る可能性も視野に入れる。
 彼女みたいな良い人――少なくとも現時点ではそう見える――に裏切られたら辛い。だからこそ、裏切るかもって思っておかないと。

 私はキリストと違って、誰が裏切るかなんて分からないんだから。





見下してもいいよ、わたしを裏切らないのなら

06.05.25 // 纏まりが無い……「見下す」か「裏切る」にテーマ絞りゃいいのに(自分で言うな)
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