子供らしさが死んだとき、その死体を大人と呼ぶ。
―ブライアン・オールディス








「…あ、今日ってクリスマスか…」

 デジタルの目覚まし時計の日付を見て、一人虚しく呟いた。
 天気は晴天、ホワイトクリスマスの確率0%。母と弟は出かけているらしく、物音一つ聞こえない。クリスマスプレゼントでも買いに行ったのだろう、と、覚醒しきっていない頭で思う。
 関係ないか。普段と変わらない、またいつもの一日が始まる。
 枕に頭を乗せなおし、壁の方を向いて丸まりながら、もう一度毛布を引き上げた。


***


 目を開ければ、そこにはキラキラと光るイルミネーションがあった。
 光で彩られた大きなクリスマスツリー。
 父に肩車されて人波から頭を突き出した自分は、恍惚とした表情だ。

「きれー……!」

 色のついた電球を見て喜ぶ子供を、擦れ違う女子高生の一団がかわいいと指差している。
 街中が緑と赤の装飾で飾られ、あちこちに見られるクリスマスツリー、生菓子屋に並ぶ可愛いデコレーションケーキや砂糖菓子のトッピング、サンタクロースやトナカイのぬいぐるみにポスター。

 サンタクロースが居るものだと信じていたあの時。
 空を翔るトナカイやソリを信じていたあの時。
 年に一回のその行事は色鮮やかで、新鮮で、楽しみで。

 玩具屋の店先で白いふわふわのついた赤い帽子を被ったサンタクロースが呼び込みをしている。
 クリスマスセールと書かれたカタカナは幼子には読めず、意味も分からない。
 白い付け髭のサンタクロースを見て、幼く純粋な自分は、両親に問いかけた。

「あと七回寝たら、うちにもサンタさん来るんだよね!」
「そうね、ゆうちゃんが良い子にしてたらね」
「良い子だもん! サンタさん、ちゃんとくれるかなー……」
「来るさ。お前はいつも良い子にしてるもんなー」

 親を両手に、手に入らないものはないし、叶わないこともなくて。
 生きるっていうのは当たり前で、常に新鮮で、目新しく美しい世界が広がると信じていたあの時。

 空を見上げると、灰色の空から、ちらちらと。
 冷たくて柔らかい白が降りてきた。


***


「……。……?」

 見慣れた天井が目に入る。カーテンの隙間から明るい日が差していて、眩しい。
 ああ……そうか。夢だったんだ。
 時計の画面が移り変わり、クリスマスは半日が過ぎ去っていた。寝過ぎて重い頭を振りながら起き上がって部屋を見回す。床に脱ぎ捨てられたソックスは、空だった。

 天気は晴天。
 窓の外には向かいの家のイルミネーション。
 カップラーメンにお湯を注いで。
 そろそろ年賀状を書かなくては、と、考えて。


 きっと、こうやって。
 子供は色褪せていく。





( 子供に戻りたいなんて思わないけれど、 )
大人になりたいなんて思えない。
05.12.25 // 彼氏彼女のいない人間には無縁のイベント。
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