十二月。
 長かったようで短かった二学期もようやく終わる。
 ビバ・俺様。
 この地獄を耐え切れば、晴れて自由の身だ。






 冬の体育館は寒い。
 全校生徒が集まっているから人口密度は高いけど、寒い。
 くそ、凍死する……っ!

「しないって」
「いや、する! ぜってー凍死する!」

 独り言にツッコミ入れやがった眼鏡に言い返せば、「そこ、静かに!」と壁際に立っていた担任に怒られた。悪いのは俺だけかよ、畜生。
 周りを見回しても、コソコソ話していたり上の空だったりする奴は多いじゃねぇか。
 つか、むしろ校長の話を聞いている生徒なんて誰一人いない。

「あのね、あんたが煩すぎるの。だから目を付けられるんだよ」
「何か校長が気の毒だ……。聞いてやろうかな」
「唐突だな、オイ」

 よし、聞いてやろう。
 と思って校長の顔と白髪頭を見つめた。
 ……。駄目だ、催眠術師には勝てん。
 大体、こんな極寒の地で寝たら死んじまう。
 寝るな、起きるんだ俺……!

 ミッション・校長の話を聞け!
 挫折までの所要時間・五秒

「あー……早く終わってくれよー……早く教室帰りてぇ……」
「ブツブツ煩いなぁ」
「でかい声出すなっつったのお前だろ」

 教室のヒーターはあんまり暖かくないけど、この際それでも構わん。
 手足の指がじんわりと冷たくなっていくのが分かる。
 凍傷になるぞ、凍傷に……。

「……暑いより寒い方がいいじゃん」

 ぼそり、と呟いた眼鏡。
 そうそう、暑いより寒い方がいいよなぁ……って……は?

「お前オカシイんじゃねぇの? よくこの寒い中で、んなコト言えるな」
「あんたこそオカシイよ。夏より冬の方がいいに決まってんじゃん」

 いや、ありえないから。
 夏と冬どっちが好きですかー?って街頭インタビューしたら殆どの人間が夏が良いって答えるぜ?
 やった事ないから多分だけど。

「夏の何処が良いのさ? 暑苦しくて、湿気と汗でべたつくし……汗臭い男共の間に整列する一学期の終業式思い出してみなよ。最悪じゃん」

 ああ……その気持ちは分からんでもない。
 臭い奴いるんだよなぁ、夏は。

「けど夏休みのが長いだろ。それにアイスに花火にカキ氷にスイカに冷やし中華に素麺!」

 食べ物ばっかりだ……、と眼鏡の呆れ顔に書いてある。気がする。
 ……冷たいモノ想像したら寒くなってきた。と、鳥肌がたってきた……。
 そんな俺の葛藤っぽいものを無視して、眼鏡は俺に目を向けた。

「宿題が多いよ、夏休み」

 聞えない聞えない。
 はっはっは、宿題なんて単語は俺様の脳内辞書には存在しないのだ!
 現在は都合よく抹消してある故に索引は不可能!

「……」

 眼鏡、溜息。
 ぜってー心ん中で俺のこと馬鹿にしてやがる、コイツ。
 そう考えながら、暫く黙った。
 校長の渋い声と生徒の囁き声が体育館内に響く。
 北風に吹かれたカタカタと窓ガラスが鳴った。……寒い。

 冬より夏の方がいいに決まってる。
 俺は、眼鏡のレンズが室内に入ると曇るのを何度も目撃している。
 その度に眼鏡は不便そうにレンズを拭くのだ。

「……眼鏡は冬の何がいいんだよ?」
「んー?」

 そう言いつつ眼鏡の方を向けば、眼鏡は欠伸を噛み殺していた。
 哀れなり、校長。
 寒さで白くなった片手をポケットに入れながら、眼鏡は人差し指と中指でトレードマークである眼鏡を押し上げた。

「冬は着られるけど、夏は脱げないでしょ? 皮剥ぐ訳にもいかないし」

 剥いでも暑いのは暑いだろうし。
 つーか発想が危ねぇよ、お前。

「冬は着なきゃ生きてけないけど、夏は着なくても生きてけるんだぜ!」

 声は少し大きめになったが、担任からの注意はなかった。長い長い校長の話に、担任自身も飽きてきたらしい。ぼんやりと何処かを見つめている。

「変質者で捕まるなよ、阿呆」

 毒づいた眼鏡の言葉が、白い気体になって目に見える。
 コタツに入って、みかんを食べたい。
 そんな気分になった。



「――以上を持ちまして、終業式を終わります。一同、礼!」

 待ちに待った号令がかかる。
 ああ、やっとクリスマス&正月休みが始まるんだ。
 さらば金欠!

「……って、今さっきまで夏休みのが良いっつってたの誰だよ」
「夏休みにもクリスマスと正月があればベストなんだけどなぁー……」
「ある訳ないでしょ、阿呆」

明日からは、冬休み。








05.11.20
題名から逸れに逸れてすみません; 霧三谷様のみ転載可です。リクありがとうございました^^


宿題は最終日になっても終わりませんでした


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