一日目一限。理科総合。
 2学期制とかいう制度の所為で超不本意ながらも夏休み明けからテストだ。

(『図はある家系におけるABC式血液型の遺伝を示したものである。……』)

 “問1 (ア)(イ)(ウ)に当てはまる血液型を答えよ。”
 ……俺様、早くも大ピンチ。
 はぁ? 知らねぇよ、ンなもん。つかある家系って誰ん家だよチクショウ。

 だー、血液型なんて調べりゃ一発で分かんだろうが!
 大体夏休み前にやった事なんて一々覚えてる訳がねーっつの!
 B型は大雑把だのB型は気紛れだの言われてるがな、コレは他の血液型の奴でも思ってるハズだ!
 F1だのF2だのPだの、地下組織の暗号じゃないんだからもっと単純にしろー!! 大体Pは“ぱーみていしょん”とか何とかじゃねぇの?! 数Aでやったぞコラァ! 多分!!

 と、叫びたいのは山々だが、堪える。
 いつもと違うテスト中の独特の雰囲気を持った教室でそんな事を叫んだら、後で優等生の眼鏡から制裁を食らうこと必至だ。
 プラス、先公からの説教という素晴らしいオマケまで付いてくる。
 ん? 寧ろ眼鏡からの制裁がオマケか? ……ま、いいや。

 右斜め前方にいる眼鏡の姿を覗き見れば、眼鏡は一心に謎の暗号で書かれた問題と枠組みだけが書かれた紙に向き合っていた。
 テスト開始して間もないのに、もう問題用紙の1枚目を捲った。
 口元には余裕の笑み(てか、口元なんて見えないけど。俺の大予想)。
 パラリ、と紙が擦れる音が筆記の音だけがする教室に大きく響く。
 ……わざと大きな音を立てて周りを焦らせようっつー作戦か?!
 嫌な奴め!! 俺はその手には乗らねぇ!

 そう、冷静に考えろ、俺。
 血液型はA、B、O、ABの4種類しかない。
 つまり4つのうちどれかを入れれば当たる!
 日本人はA型が多いらしいしAでいいだろ。Aで。
 よし、次だ。

(『エンドウの種子には丸いものとしわのものがあり、……』)

 あー……そういやこれは聞いたことがある気がする。
 エンドウ豆が丸だったりしわだったりする奴。
 ……ああ。メンデルの法則だ!
 最初の種が丸で、次の種が丸3つしわ1つになるから……
 ……あっれー? 逆だったか?
 ま、いいや。適当で。

 うーん……でもメンデルはすげーよなー
 例えば、例えばだぞ?
 ライオンと猫が子供を産めば、その子供はライオンになる訳だ。
 で、その子供のライオン同士が子供を生むと猫1匹とライオン3匹が生まれる訳?
 あ、これって植物オンリーだっけ……?


 ……やっぱ昨日は漫画なんて読んでないで勉強やるべきだった……
 テスト中、いつも思う。
 だけど結局生かされない反省。
 テストが何の役に立つのか、よく分かんないんだよなぁ……
 このテストで俺の未来が決まるって訳じゃないし?
 何かやる気でねぇんだよー……
 理解不能だ、ガリ勉眼鏡め……!


 パラリ、パラリと時々紙が擦れる音が響く。
 休み時間はおろか、いつもは授業中でも煩い教室で。
 いつもふざけてる奴が真剣に白い紙に向かい合う。
 テストすら真面目にやらない奴だって、寝て時間を潰している。
 教師が時折生徒の間を縫って歩く靴音。
 静かな、教室。


 気が付くとクラスの奴等が猫に摩り替わっていて、俺は1人で座っていた。
 さっきまで寝ていた奴の机にいる猫はやっぱり寝ていて、
 さっきまで悩みながらもシャーペンを走らせていた奴の席にいる猫は、
 口でシャーペンを持って必至に問題を解いている。
 椅子の上に2本足で立ち、机に両手をかけて一生懸命。
 懸命な様子を主張するかのように、ピンと張った尻尾。

(そういや……眼鏡は?)

 眼鏡の席には悠々と尻尾を振りながら口にシャーペンを銜える猫の姿。
 やっぱり……眼鏡、かけてるし。
 マタタビやればあの無愛想眼鏡も少しはマシになるかな、なんて思ったり。

 そこで、ふっと眼鏡がこちらを向いた。
 艶々とした毛並みを持った眼鏡猫が、椅子を降りてトコトコと歩いてくる。
 4本足。猫だし。
 いいのかよ優等生猫。サボり上等組だって立ち歩いてねぇのに……

 呆れた目を向けていると、眼鏡猫は俺の机の前で立ち止まり、軽い動作でジャンプ。
 ふわり、と重力を無視して俺の前に降り立つ。
 じっと白い部分のない動物の目で俺を見て、少しは愛想のある声で――


「起きろ、阿呆」


 バシン。頭に衝撃が走る。
 パシン、ってな軽い音じゃなくて、バシンだから。
 思いっきりだから。

「い……ってぇ!」

 勢いよく頭を上げれば、冷然とした眼鏡と目が合う。
 うわ、怖ぇ。

「テスト終わったんだけど」
「……マジ?」
「嘘吐いてどうすんのさ」

 いや、俺を陥れようとか………ないか。
 だよな。だよなだよなだよな。
 俺寝てたよな、コイツが猫になんざなるかっつの。
 途中で気付けよ俺。
 でも気付けねぇって普通。夢ってそういうモンだし。

「赤点確実だね、オメデトウ」
「ぎゃー! 嫌な事思い出させんな眼鏡!」

 ん?
 いつもなら「煩い阿呆」と帰ってくるところだが、眼鏡は黙ったまま。
 それどころか笑ってるし。

「明日は英語だよな? ああ、こんな所に素晴らしい単語表が。」

 ぴらり、と眼鏡が取り出した1枚の紙。
 そこに書かれた十数個の単語。
 英語のテストでは毎回単語が10個出題される。

「この学級1位の優秀な生徒がヤマを外した事があったかなぁ……?」

 ……コイツ、職員室からパクってきやがったのか!!
 眼鏡に限ってそんな事はないか?
 いや、今の時代、誰が何をやるのか分からん!
 それにあの冷酷眼鏡が俺に協力しようとしてんぜ?
 夢じゃねぇよな? この眼鏡、本物だよな?
 でも背に腹は変えられないし、紙に手を伸ばした俺。
 さっと紙を引いて片手を出す眼鏡。


「500円」
「…………」


 うわ、紛れもなく本物の眼鏡だ。
 あの眼鏡猫の方が愛想良かったぞ?






俺は結局それを買わず、結果英語はヒトケタだった
( 買おうが買うまいが赤点だったらしい。買わないで良かった! )


05.09.15 // 副題「眼鏡、猫になる」(大嘘)
2style.net
title:少年はにびいろをした不可避の幻を見る