茹だる様な暑さの中、ジージーと鳴く蝉。
 虫取り網を持って追いかけたのは遥か昔の話だ。
 その鳴き声がクーラーの壊れた部屋をどれだけ暑く感じさせる事か!
 ウザイ、鳴き止め!と思った事は誰だってあるはず。
 かく言う俺も、この夏ずっとクーラーのない部屋で蝉に黙れと念じ続けていた。

 でもやはり。蝉は夏の風物詩だったのだ。



「恐怖の日が来ちまった! 助けろ眼鏡!!」
「い・や・だ」

 一文字一文字強調しやがった、こいつ!
 俺が下手に出て頼んでやってるのに!

「冷血ー! 無情ー!!」
「それが人の部屋に上がりこんで言う台詞?」
「畜生、こんなクーラーの効いた部屋にいやがるとは卑怯者め!」
「聞けよコラ」

 眼鏡は俺の方を睨みつつ、手を振る。
 出て行け、の合図らしい。無礼者め、無視だ。

「見せてくれるだけでいいんだ! お前に不利益はないだろ!」
「利益もないでしょ。つーか写そうとするあんたのが卑怯」

 ぎゃあ、卑怯とか言いやがった!
 こっちは必死で頼んでるんだぞ!
 友の命がかかってるんだ、自分の利益など考えずに見せるべきだ!!

「あのねぇ、見せないのはあんたの為でもあるでしょ。自分でやってこそ宿題じゃん」

 それは勉強が出来る奴等の言い分だ。
 一般学生の俺には、夏の悪夢以外の何物でもない。
 宿題など写して何ぼの物だと、俺は断固主張する!

 しかし結局、騒ぐな喚くな暑苦しい。と一刀両断され、家から追い出された。
 くそっ、今からじゃどう頑張っても間に合わねぇ。
 ……最後の頼みの綱だったのに。あの陰険眼鏡め……!

 日暮れの赤の中、アスファルトの道路をとぼとぼ歩く俺。
 BGMはこの夏最後の蝉の鳴き声。
 ……めっちゃ虚しい。



「たーのーむ! 眼鏡、先公来るまでに時間ある! 写させろ!」
「嫌だっつってるだろ、しつこいなぁ」
「眼鏡様! よっ素敵眼鏡! フレームの形が恰好良い!」
「黙れ阿呆!」

 夏休みが明け、恐怖の登校日。
 俺は通学途中、昨晩考えた褒め言葉を羅列していた。
 ケチ眼鏡め、頑として首を縦に振らん!

 ふと、眼鏡が足を止めた。
 俺も足元を見れば、鳴く事のない蝉が仰向けに倒れている。
 耳を澄ませば聞えるが、明らかに小さくなったBGM。

 ああ、蝉は夏の、夏休みの象徴だった。
 コイツ等が鳴いてる内は、恐怖も感じずに遊んでいられたのに。
 煩いと思ってしまった俺は何て愚かだったんだ。


 蝉よ、邪険にして悪かった。
 カムバッーク!


「……蝉が戻ってきても夏休みは戻って来ないんじゃない?」








いなかったらいないで、寂しいんだよな

05.08.31 // 俺と眼鏡その2。ああ、まだ宿題終わってない…(問題発言)
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title:少年はにびいろをした不可避の幻を見る